『方舟』 夕木春央(著)を読んで

(あらすじと感想)

 

[あらすじ]

『方舟』は、近未来の日本を舞台にしたSF小説である。人類は、地球環境の変化によって滅亡の危機に瀕していた。そんな中、科学者たちは人類を救うための最終手段として、巨大な宇宙船「方舟」を建造した。

方舟には、選ばれた人々が乗り込み、地球から脱出して新たな惑星へと移住することが計画されていた。しかし、乗船する人々を選ぶための基準や手続きに問題があり、社会には混乱が広がっていた。

物語は、主人公の一人である高校生の白木乃莉と、科学者の石井壮介を中心に展開する。乃莉は、地球の環境変化に悩む日々を送っていたが、方舟に乗り込む機会が訪れた。一方の石井は、方舟の建造や選抜基準の改善に尽力していた。

しかし、方舟計画は思わぬ問題に直面する。乗船者の選択や手続きによって社会に深刻な不満が生じ、反対派の暴動やテロ事件が発生する。その中で、方舟の乗組員たちは選択を迫られ、苦悩や葛藤を抱えながら生き残りをかけて戦っていく。

物語のクライマックスでは、方舟に乗船した人々が新たな惑星に到着するが、そこには新たな困難が待ち受けていた。乗船者たちは、地球に続いて人類の存亡に直面し、新たな未来を切り開くために選択を迫られる。

 

[感想]

『方舟』は、近未来の日本を舞台に人類の存亡を描いたSF小説であり、非常に興味深く読み応えがあった。物語の中で人類が直面する危機的状況に対し、登場人物たちは選択を迫られ、それに伴う苦悩や葛藤を抱えながら生き残りをかけて戦っていく。その中で、人間の本質や意志の力、そして選択の重さが描かれており、深い考えを呼び起こす作品である。

特に、登場人物たちの心理描写が非常に緻密で、彼らの感情や思考が自然に流れるように描かれている点が印象的だった。人類の存亡にかかわる選択を迫られる中で、彼らの苦悩や葛藤が深く描かれ、読者は彼らとともに感情移入することができた。

一方で、物語の中で人類がとるべき選択やその背景が不十分である点が気になった。重要な決断が行われる場面があるにも関わらず、その根拠や思考プロセスについてはあまり詳しく説明されていないため、読者は物語の展開に一定の疑問を持つことがあるかもしれない。また、物語がテーマや描写が深く、完全に理解するには複数回の読み返しが必要となるかもしれない。

総じて言えることは、『方舟』は、人類が直面する極限状況下で生き残るために取り組む選択や苦悩を描いたSF小説である。登場人物たちの心理描写が緻密で、彼らの感情や思考に深く入り込むことができたが、選択に対する背景の説明不足や深いテーマによって理解に時間を要する点がある。SF小説が好きな人や、人間の選択や苦悩を描いた物語に興味がある人にはおすすめできる作品である。